せんとぴゅあ(北海道)
2024.05.04

せんとぴゅあ(北海道)

Craft / Shop guide

旭川空港の近くにある文化拠点

「せんとぴゅあ」という施設はⅠとⅡと2つの建物からなる、北海道東川町にある文化拠点です。「旭川空港」から車で13分ほどの距離にあるせんとぴゅあには、図書館や日本語学校などがあり、国内外の多様な人々との文化施設として地域の方々に親しまれています。東川町を初めて聞いた方もいらっしゃるかと思いますが、「写真文化」、「家具デザイン文化」、「大雪山文化」という豊富な文化資源を有する街です。

建物は旧東川小学校を再利用

家具の街、東川町

東川町や東神楽町、旭川市は「家具の街」と呼ばれており、これらの街で作られた家具の総称を「旭川家具」と言います。北海道大雪山の木を伐り出し、生活の道具をつくり始めたのが、旭川家具の発祥です。その旭川家具を作る家具メーカや職人の3割は、東川町に拠点を構えています。また、東川町は椅子研究家の織田憲嗣さんが長年かけて収集した歴史・芸術価値の高い、名作椅子と日用品の膨大なコレクションを公有化していることもあり、暮らしに寄り添った上質な家具文化に触れることができます。(そのほかにも、生後100日頃の子どもに町内で手作りされた椅子を贈る「君の椅子プロジェクト」など、ほんものの家具との暮らす習慣をつくる活動を多数行われています)

「君の椅子プロジェクト」で贈られた、歴代の椅子

織田憲嗣さんというコレクター

織田さんのことは東京テレビの「新美の巨人たち」で知りました。その放送を見て、気になっていた美術展「フィン・ユールとデンマークの椅子」で展示されている椅子の多くは、織田さんが所有するものだと分かり、点と点が繋がりました。「新美の巨人たち」では、旭川にある織田さんの自邸の様子も映されていて、ミッドセンチュリーの北欧のものを中心に、陶磁器やガラス、椅子に照明と「美しい日用品」が、最適な位置、最適なバランスで置かれていて、ため息の出るような空間でした。特に、窓際のガラスのオーナメントが日の光を浴びてキラキラと光り、その煌めきが北海道の雪景色の中で際立っていたのが印象に残っています。これだけの名作家具や日用品を、織田さんの色に染めて配置されていること、その空間に身を置く織田さんの存在感が名作家具たちに負けていないことにも感動を覚えました。人生をかけて美しい家具を収集し、お金の工面にも苦労されながらも夢を追いかけるその生きざまが強い存在感を放っているように感じました。  

織田さんの名作椅子コレクション

せんとぴゅあでは、そんな織田コレクションによる椅子の展示が、定期的に実施されています。せんとぴゅあIで、訪れた際に行われていた展示「椅子のいろは」より、特に気になったふたつの椅子をご紹介します。

アルテック社のスツール60を彷彿とさせる、デンマーク製の椅子は、7つのパーツからできています。ネジや釘を一切使用せず、ごくわずかな接着剤で接合されており、そのシンプルな構造が目を引きます。

木の椅子

竹製の座椅子が珍しいと思い、カメラに納めたのは、坂倉準三の作品です。細かく編まれた竹籠が好きな私は、この椅子に吸い寄せられました。坂倉準三は渡仏し、ル・コルビュジエに師事。その時の同僚であったシャルロット・ペリアンが来日した際に日本各地の工芸にふれ、竹製の椅子を作ったことに影響を受け、考案されました。

竹の椅子

公共スペースにも上質な椅子を

ラウンジの壁面には木が使われ、多種多様な椅子が置かれています。プラスチック製の椅子ではなく、職人さんたちによって作られた木を基調とした椅子が並んでいます。よくある公共スペースとは一線を画す空間です。何気なくこの空間で過ごした時間が、いつかの間にかその人の価値観の土台となる可能性を秘めた場所だと感じました。

せんとぴゅあIにあるラウンジ

図書スペースと名作椅子

別棟のせんとぴゅあIIには、図書スペースがあります。驚いたのは空間のコンセプトに合わせて名作椅子が置かれていること。一番明るい窓際には机が置かれていて、勉強や仕事をしたり、読書を楽しむ人々の姿がありました。

本棚付近には、リラックス感のあるハンス・J・ウェグナーの「The web chair」がありました。初めて見た椅子でしたが、座面の高さ、背もたれの角度と強度が最適で座り心地がとても良く、印象に残っています。背もたれのロープで編み込まれた形状からクモの巣を意味する「web」と名付けられました。

照度が抑えられた雑誌コーナーには「Nychair(ニイチェア)」がありました。家にはロッキングチェアタイプがありますが、こちらにあるのは最も座面が低く安定した座り心地の「ニイチェアエックス」というタイプです。深い休息に適した形状という謳い文句通り、この椅子に座ってすやすやと眠っている方が多くいました。とても気持ちよさそうで、こんな空間が近くにある地域の方々がうらやましくなりました。

椅子好きにおすすめの街

長く育まれてきた家具文化に織田さんのコレクションが加わり、公共スペースでほんものの椅子にたくさん出会える街、東川です。大雪山の名水が生んだ、おいしいお豆腐屋さんが多いのも特徴です。豆乳ソフトクリームやとうふドーナツも絶品ですので、是非合わせてお楽しみください。

東川町を知るきっかけとなった「北の住まい設計社」の記事もありますので、合わせてお楽しみください。記事はこちら

宮崎豆腐店の豆乳ソフトクリーム。豆乳感が強すぎず、それでいて後味が牛乳よりさっぱりして好みでした
平田とうふ店のとうふ生ドーナツ。ほんのり甘いふわふわ食感で一瞬で無くなってしまいました

せんとぴゅあ

せんとぴゅあIは月曜日が休館日です。また年末年始はI・Ⅱともに休館日ですので、お出かけ前にWEBサイトでご確認ください。
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