手仕事の温もりと洗練されたデザイン
インテリアが素敵でInstagram をフォローしている方の投稿で知った、若松由香さんの椅子敷。民藝の思想を感じる手仕事の温もりが有りつつも、北欧デザインを連想させる洗練された柄と色づかいに惚れて、いつか生活に取り入れたいと思っていました。北欧家具との相性が良く、シンプルながら部屋の中で映え、それでいて存在感がありすぎない。そんな塩梅がいいなぁと思っていました。
若松由香さんのこと
若松さんは、岡山県倉敷市にある「倉敷本染手織研究所」で倉敷ノッティングを学ばれました。その後、名古屋へ移り住み制作活動をされています。
倉敷本染手織り研究所とは
倉敷には、東京に次いでニ番目にできた民藝館があります。初代館長は、染色家で手織り物職人でもあった外村吉之介が務めました。その外村吉之介氏が昭和28年(1953年)に設立した施設が倉敷本染手織り研究所です。ノッティングを後世に伝える、いわば学校のような場所です。全国から生徒が集まり、寝食をともにしながら、一年間ノッティングや機織りを学びます。
ノッティング誕生の背景
まだまだ畳に座る生活が中心の中、白樺派の人達が椅子を日本へ持ち込みました。柳宗悦たちがイギリスへ渡り、良い椅子を持ち込み、日本での椅子作りが始まりました。しかし、木の椅子は固く、冷たいため、敷く物を必要としました。そこで外村吉之介が敷物を作る機織り機を考案し、椅子のサイズに合わせて敷物ができるようにデザインしました。日本のアーティスト達が椅子に合わせて編み出した敷物がノッティングなのです。
ノッティングの作り方と込められた思い
ノッティングは元々織物をしたときに出る余り糸を再利用して作られた物です。結び目を意味する英語“ノット”が名前の由来です。縦糸に木綿やウールの糸を束にして巻きつけ、切る。一房ずつ結ぶことで様々な模様を作り出します。“糸の無駄がなく、長くもつものを”という視点で様々な柄が考案されました。
古びないデザインの秘密
研究所の生徒達は、決まった時間に起きて、作業をして、ご飯を食べてまた作業をします。一見単調に見えながらも、それが心地よい生活のリズム。それはまるで一つずつ丁寧に折り重ねていくノッティングのようです。コツコツと誠実な手仕事の積み重ねで生まれた、時代が変わっても古びないデザインの真理が、ここにあるように思います。
若松由香さんのデザイン
「黒・赤・白の3色で構成される民藝の伝統的な柄があるのですが、自分の生活の中に、その柄が入ってくると考えたときに浮いてしまうと思ったんです。どうしても色合いが強いので、家具を選んでしまうんですよね。」と、若松さんは言います。(Life Designsのインタビューより)若松さんが目指しているのは、日常遣いのできる飽きない柄です。インスピレーションは、植物、動物の模様など、普遍的なものから受けたり、長崎出身とあり、街のあちこちにある教会のステンドグラスをイメージすることもあるのだそうです。
ノッティングのある生活
いいなと思う柄がたくさんあって悩みましたが、紺色に白い線が印象的な柄にしました。(綿・ウール、32㎝角の正方形)椅子に敷いてみると若松さんの狙い通り、すっと馴染み、とても丈夫です。初めて手にした際、ずっしりとした椅子敷きの肉厚さに驚きました。この肉厚さ故に、座面が硬いものでも、長時間座っていても苦になりません。ウールは夏場は懸念されがちですが、実は夏は涼しく、冬は温かい素材とのこと。また、一年を通じて使うことができて、大切に使えば20年以上は問題なく使用できるそうです。家にある色々な椅子に敷きながら、10年、20年とノッティングのある生活を楽しみたいと思います。