山の中の小さな美術館
museum as it isは、千葉県長南町の山の中にひっそりと佇む、小さな美術館です。まるで一軒家のようで、週末にだけ開館しています。限られたお客様だけの、特別な空間…。そんな心持ちを感じます。
伝説の古道具店
かつて目白にあったお店「古道具坂田」の坂田さんが営むこの美術館は、建築家・中村好文さんによるものです。中村さん自身も若かれし頃、古道具坂田に出入りされており、新人の給料ではなかなか買えないにも関わらず、坂田さんは色々な話を聞かせてくれたそうです。既存の美しさには捕われず、古今東西の垣根を超えて自由な目でものを見る目は、ものづくりに関わる人達を中心に大きな影響を与えました。中村さんの他にも、坂田さんの権威によらないモノ選びに影響を受けた方は、木工作家の三谷龍二さん、陶芸家の安藤雅信さんがいます。(※編集者調べ)
簡素だからこそ感じること
茶室のような高さをおさえた入り口を進むと、和紙と黄金色の畳の部屋があります。照明の光を吸い込む和紙と小さい入り口の効果が相まって、温かみがあり、秘密基地のような落ち着く空間です。つくりは、和紙を石膏ボードに貼り付けただけのような簡素なものですが、和紙が剥がれたら貼り直せば良いというおおらかさを感じます。
庭を出ると、簡素な竹垣が庭を囲み、鉄製のテーブルが置かれています。ふわふわと苔むした地面に、はらりと椿の花が落ちれば、それはわびさびの世界。足りない状態だからこそ感じる、閑寂なよさ。落ちた椿をも趣きとして受ける余裕が、この庭にはあります。
儚いものが伝えること
この美術館を訪れて感じた、坂田さんが伝えたかった美意識。それは、人々に気づかれずに見過ごされてしまうような、儚くて、消えそうなものの良さだと感じました。華美なものから情報を得たり、圧倒されることはあっても、そこに自己を投影することは難しいと思います。侘びたものや余白のあるものには、心を寄り合わる余地があり、それが見る人の細やかな情緒に繋がるのではないでしょうか。地平線にまで広がる海や、のどかな景色が続く車窓から、ふと懐かしい日々を思い出したり、はたまた、心に静寂が訪れ、今ある幸せにふと気づく…なんてことは、誰にも経験があるのではないでしょうか。
ほっと一息、粋なサービス
美術館を一通り見終えた頃、珈琲か紅茶のサービスがあります。枯山水のような趣きの庭で、一息つく時間は何にも変え難いひとときでした。友人宅に訪れたような気持ちを味わせてもらえる、不思議な美術館でした。
museum as it is
開館日は土・日のみ。開館時間は10時30分~16時までです。