松本旅行、民藝の旅
松本を訪れるのは3回目です。かねてから友人と約束をしていた旅行で、テーマをつけるとするなら民藝の旅。民藝というのは「民衆の手で民衆の為に作られる実用品を意味します。見られる為よりも用いられる為に作られる品を指します。」(柳宗悦,MUJIBOOKS,2017)松本民藝に始まる歴史のあるものから、松本の作家さんたちによる新しいクラフトマンシップを感じる旅です。
素朴で味わい深いホテル
13時前に松本駅についてまず向かった先は、一日目のお宿「松本ホテル花月」です。先にチェックインを済ませ、荷物を預けさせてもらいました。エントランスを入ると、松本民藝の家具が重厚ながらも温かみのある雰囲気で並んでいます。ホテルにはカフェと「tsumugu」というかわいらしいショップがついています。そこには、小さなほうきや表紙のデザイン性が高い「信州民藝」の冊子がありました。他にも葡萄ジュースなどの食べ物、洋服、日用品など小さな空間に美しく、ぎゅっと並べられていました。
街歩きをしようとホテルの外に出ると、ナマコ壁がちらほらと残っていて城下町の風情を感じることができました。
松本ホテル花月
気になったら入ってみる、気ままな街歩き
松本駅の方面にむかって歩いていきました。とあるショップに入ると「MONBUS」というセレクトショップを教えてもらい、そちらへ向かいました。レディース・メンズのファッションアイテムと雑貨、一部ベビーアイデムも扱っていました。そこで可愛いベビーアイテムを発見。クリーム色のネックウォーマーと真っ白のワンピース丈のヘンリーTシャツ。素材もとても上質そうで気持ちよく、ワントーンのコーディネートがとてもかわいいのです。聞いてみると「JOHA(ヨハ)」というデンマークのブランドで、上質なウールで下着やベビー服を作っているとのこと。ウール特融のチクチクする感じがなく、とってもなめらかでした。外遊びが大好きでよく動く息子にはワンピース丈は動きにくいかなぁと思い購入しませんでしたが、ロンTなどに出会えばぜひ買ってみたいと思う素敵な洋服でした。友人は木製の船のモビールを購入していました。紙ではなく木製でめずらしいのが購入の決め手だったようです。
MONBUS
JOHA
松本ホテル花月のお部屋へ
新館と旧館があり、私たちはレトロな雰囲気を残す旧館に宿泊しました。色味が抑えられていて、素朴ながらも少しモダンな雰囲気。柱や天井に木材が使用されていたり、木製の衣装ケースがあったりと要所要所にアクセントがあります。丸い照明も愛らしいです。
ちなみに、お風呂は内風呂もありますが、大浴場もありますよ。8月でしたが夜は窓をあけると風が気持ちよく、ベッドもふかふかしていてよく眠れました。
渋みのある、長野県産ぶどう100%のジュース
朝ごはんは朝食会場でいただき、小さな器にさまざまな料理がのった和食でおなかいっぱいになりました。中でも一番印象に残っているのが、ぶどうジュース。ワインに使用されるぶどう(コンコード)をジュースにしているので、ほのかな渋みがあって甘すぎない。ちょっぴり大人なジュースです。おかわり自由なので、ぜひこころゆくまで味わってもらいたい一品です。ホテル内のショップ、「tumugu」でも購入可能です。さぁ、松本旅行2日目の始まりです。
お目当てのふたつのショップ
ひとつめは「LABORATORIO(ラボラトリオ)」です。そこで伊藤昌志さんのオーバルボックスを見てみたかったのです。カフェも併設していたので、まずはここで小休憩。古い洋館を利用されていると思しき店内は、いろんな国の家具が混ざっていながらもシンプルで唯一無二な世界観。床板はわたしの好きな濃い色です。
カフェとは別館に雑貨スペースがあり、ついにオーバルボックスを発見しました。レジカウンターの裏に、すくっとおいてありました。この形しかありえないような、そぎ落とされた美しさがあります。色はスタンダードなサクラに黒色もあり、黒はサクラに比べシャープな印象です。私は黒の取っ手付きのオーバルが気に入りました。収納と移動を兼ねそろえた機能が便利そうです。爪切りや体温計など息子まわりの日用品をまとめるのが良さそうだなぁと想像。ネットで購入&オーダーもできるとのことなので、ラインナップ兼価格表をもらって帰りました。
もうひとつは木工デザイナー、三谷龍二さんのお店「10cm」です。ラボラトリオから2.3分の距離にあります。この日は定休日ではないのですがお休みでした。とても行きたかっただけに残念でしたが、大好きな街なのでまた機会があるだろうと思い、代わりに外観をぐるりと見まわし目に焼き付けつけておきました。
ラボラトリオ
10cm
中町通りで掘り出し物を探す
中町通りにはおしゃれなカフェや雑貨屋さんが点在しています。嗅覚が何かを察知したところには迷わず入ってみます。どんな素敵なものに出会うかわからない、旅の楽しみです。エスニックなもの、日本のものがミックスされた奇想天外なお店を見つけました。店内を物色して…ありましたよ。シンプルな手すきのレターセットです。
素材の表情が見える潔ぎよい封筒・ハガキはなかなか見つかりません。素材が美しいものは余計な施しはいらないと思います。インクジェットプリントが可能なのも嬉しいポイントです。
世界の手工業サムサラ
やっぱり、まるも旅館
ホテル花月から荷物をピックアップし、まるも旅館にチェックインしました。というのも花月から250mの距離にまるも旅館があります。喫茶まるもを横目に木戸をがらがらとあけると、お宿の方がでてきて手際よくチェックインと説明をしてくれました。お部屋に入ると、畳の小さなお部屋にお宿の歴史の詰まったローデスク、鏡など必要最低限の家具が置かれていてミニマムながらも温かみがあります。旅館の楽しみは朝ごはんではないでしょうか。こちらは魚の塩焼きがメインの定食スタイルです。甘い卵焼きに、お味噌汁、フルーツまでのフルコース。ご飯を食べる空間がまた良いのです。
女将さんに話を聞くと、明治からの建物を守り継いできて、家具は全てその当時からのもの。当初はもっと黒々したであろう民藝家具が優しい木肌を見せています。本物はみすぼらしくならずに、堂々した経年変化を楽しめることを証明しています。リーズナブルな価格で、民藝の歴史に浸りながら美味しい朝ごはんが食べられるからまた帰ってきたくなるのです。
まるも旅館
よき化粧とは身に従うもの
柳宗悦の言葉に「よき化粧とは身に施すものではなく、身に従うものであろう。」というのがあります。これは原料に対する柳宗悦の考えなのですが、この旅を終えて感じたのは、原料からどんな形をつくるべきかの話には留まらないということです。私も友人も、洋服(微妙な丈や色にこだわり体や肌を綺麗に美しくみせるもの)、化粧品(隠すものではなく自分を魅力的に見せてくれるもの)、家具(感性に寄り添うもの)を選んでいるのだということでした。これからも身に従う、すなわち自分の感覚にフィットするものを選び、慈しんでいきたいと思いました。