小さな週末住宅
ヒヤシンスハウスは埼玉県北浦和にある所沼公園の畔に建っています。詩人で、将来を期待された建築家でもあった立原道造がスケッチを書き、別所沼のほとりに自らの週末住宅を構想していました。五十通りの試案を重ね、旗のデザインを依頼したり、住所を印刷した名刺を親しい友人に送っていたそうです。しかし計画なかばで結核により24歳の若さで亡くなってしまいます。没後60年目に立原道造の夢が叶います。さいたま市が政令指定都市になり、別所沼公園が埼玉県からさいたま市に移管されたこととで、ヒヤシンスハウスを作ろうという機運が高まり、寄付を募ってついに実現しました。※ヒヤシンスハウス公式サイトより
おとぎ話のような外観
とある雑誌のインスタグラムで、絵本に出てきそうな可愛らしい家を見て、興味が湧いたのがヒヤシンスハウスでした。建築家・中村好文さんの住宅読本を見ていると、中村さんもヒヤシンスハウスに魅了されたひとりだと分かりさらに興味津々。点と点が繋がりました。ヒヤシンスハウスはキッチンとお風呂がないのが特徴ですが、ル・コルビュジエが最晩年に愛用したカップ・マルタンの休暇小屋にもキッチンとお風呂が無いのは面白い偶然です。
心地いい窓辺
ヒヤシンスハウスに足を踏み入れると、窓辺のコーナーに置かれた植物に目が止まりました。家一番の特等席であろう窓辺は本当に気持ち良さそうです。
十字に型取られた木の雨戸とガラス窓は、壁中に引き込み、全て開口することができます。別所沼からの清らかな風が室内に流れ込み、なんとも気持ちが良いです。自分と向き合うための空間でありながら、中と外が有機的に繋がり、10畳以上の広がりを感じます。人は動植物の気配を感じる方が落ち着くのではないでしょうか。このコーナー窓が、ヒヤシンスハウスの魅力の大部分をしめているように思います。
詩を書くための家具
室内には、ベンチ、備え付けの物書き机と椅子、窓際にはベッドがあって、すべて一直線に並んでいます。ベッドの枕元には本棚があり、小窓からは木漏れ日が降り注いでいます。空間に対して、たっぷりと余裕のある書き物机。立原はここで詩のための構想を練りたかったのだそうです。
ディテールも抜かりなく
椅子も立原のデザインで、雨戸と同じ十字のくりぬきが施されていて、教会の椅子のような素朴な形をしています。
トイレの取っ手は鉄製で、細く優美な曲線を描いています。細部も抜かりなくデザインされており、それでいて華美ではない絶妙な塩梅です。
暮らしの最小単位とは
ミニマルな空間でありながら、冷たさを感じないのは、外とつながる窓、詩を書くための物書き机など、立原が重要なものを見極め、それを中心に配置しているからだと感じました。人はひとりになる場所が必要ですが、つながることも必要な生き物だと思います。つながるものは、自然でも、人でもよし(人も自然の一部ですね)。私たちは繋がり、循環して生きています。ヒヤシンスハウスには時代を超えて感動が残るもの、多くの人の心を豊にするものがあると感じました。
ヒヤシンスハウス
水・土・日・祝が開室日で内部を見学することができます。