市川籠店(東京)
2021.01.10

市川籠店(東京)

Craft / Shop guide

歴史を感じる佇まい

東京の南千住に、市川籠店があります。明治通りを歩いていると、ひときわ古く、深い色をした木の扉が見えます。窓を覗くと、かごやざるが棚にずらりと並べられていて、いくつかは天井からぶら下がっています。籠好きの方ならこの光景だけでも心踊ってしまうのではないのでしょうか。五代目店主の市川さんが教えてくれたのですが、今のような商いを江戸時代後半から明治時代前半あたりには行っていたようです。

椅子に座っている男性が五代目のお爺さま

生活に根ざした、手仕事

市川籠店は、日本津々浦々の、かござるなどの編み組み品の販売(一部海外のものもありますが、比率としては日本のものが大部分を占めています)、卸売りを行いっています。身近な自然素材を使った手仕事を紹介し、そのどれもが、生活に根ざした品々です。近頃はプラスチックのような人工物や、段ボールのように使い捨ての資源が生活の中で使われるようになり、竹や籐でできたざるやかごを見ても、生活に根ざした物と感じない方もいるのではないでしょうか。例えば、段ボールが一般的になる前は、運搬、輸送用として「角籠(かくかご)」と呼ばれる籠が使われていました。今では考えられない価値のあるもので荷物が運ばれていた訳ですが、荷物をまとめて運ぶ方が便利だ、という必要に応じて、すぐに採取できる自然素材を使って、籠が編まれた。必然から生まれ、当時は自然素材を使った、人の手により作られた生活の道具が当たり前だったと想像できます。もし角籠で荷物が運ばれる文化が残っていたら、どれほど日常の風景が違って見えたでしょうか。

角籠(市川籠店のインスタグラムより)

どうやら、竹かごが好きみたい

わたしのお目当ては決まっていました。現在、トイレットペーパー入れにしているかごを息子の服入れに変更するため、新しいかごを探していました。オフィシャルサイトで見かけた、大分県白竹でできた整理かごに狙いを定めてお店に伺いました。お店に入るやいなや、すぐに見つけることができ、「あ、やっぱりいいわ」と感じました。竹かごがすきなのは、どこか涼しげで、凛とした表情を持っているからです。作り手の方は、かつてバックパッカーとして、世界を歩いた経験を持ち、国内外へのアンテナをしっかりと立てながら、日々竹細工に打ち込んでいる方だそうです。

細かい工夫にうなる

全体の佇まい、理想のサイズだったことが購入の決め手ではありましたが、よく考えられているなと真っ先に目がいったポイントがありました。それは角の編み方です。衝撃が加わりやすいところは竹ではなく、柔らかい籐(とう)で保護されています。角をぶつけたときに、あたりを柔らかくし、パキッとおれないような工夫があります。その細やかな配慮に惚れてしまいました。

四隅は籐で保護されています

トイレ用品入れにしようと思いましたがバスタオル入れに落ち着きました。

市川籠店

 ◎市川籠店についてはこちら
(一般の方向けは木・金・土どみ。月一度は日曜日も営業。詳細はWEBサイトをご確認ください)

おまけのご飯情報

中華と洋食の不思議な?組み合わせの「やよい」というお店があります。孤独のグルメでも紹介されており、お手頃ながらお腹も心も満たしてくれるお店です。わたしが頂いたのは「ポークソテー(300g!)」。(定食にして頂きました)サイズにおののくことなかれ。表面はカリっと焼かれていて驚くほどさっぱりと食べることができます。良い油なんでしょう。

デミグラスソースがかかっています

中華・洋食 やよい

◎中華・洋食 やよいについてはこちら

また、こちらには珈琲の名店、「カフェ・バッハ」があります。ツインバードのコーヒーマシーンをバッハの社長、田口さんが監修されていたことで知りました。味の確かさはもちろんのこと、心の交流がなされる場としてのカフェを考えておられる、地域に愛されたお店。

お店をでると、社長が一服されていてお話することができました。思いがけず、子育ての金言を頂きました。第一印象は人懐っこい方。

カフェバッハ

◎カフェバッハについてはこちら

この土地について

江戸時代には吉原遊郭と呼ばれる、幕府公認の花街がありました。明治時代まで形を変えながら営業していたようです。樋口一葉の「たけくらべ」はこの吉原が舞台となっています。また、戦後・高度経済成長期には日雇い労働者の集まる簡易宿泊所街(ドヤ街)となりました。このあたり一帯のドヤ街は、山谷(さんや)と呼ばれていました。

怖いイメージを持つ方もいるかと思いますが、近ごろでは幼稚園の女の子が一人で歩ける街となっているようです。大手資本はコンビニと数件のファミレスのみ。行政による街おこしがされない地域ならではの、まちの魅力があるように思います。お店の人たちは、「お待たせしました」と目をみて温かく迎えてくれたり、息子をつれて歩いていると、おじさんが「ぼうや、寒くないかい」と一声かけてくれます。

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