jikka(静岡)
2024.10.16

jikka(静岡)

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伊豆高原のミステリー

以前、イギリスBBCで放映された『The World’s Most Extraordinary Homes』という建築番組を、デンマークへ向かう機内の中で見ました。伊豆高原の小高い丘陵地に、なんとも変わったテントみたいな、とんがりコーンのような建物が現れました。かなり斬新な形の屋根です。林に囲まれた不思議な建物群は、おとぎ話の舞台のような雰囲気があります。番組を見ても、実際はどんな場所なのか、何が食べられるのか分からず、興味はますます深まるばかり。ホームページはもちろん、インスタグラムなどのSNSアカウントもなく、ほとんど情報がありません。どうしても知りたくなって、伊豆高原まで訪ねてみることにしました。

とんがり屋根の不思議な建物へ

大磯ロングビーチを抜け、海を眺めながら横浜から伊豆高原へと向かいました。エントランスから林の小道を上ると、あのとんがり屋根の建物が見えてきました。渦を巻いた貝殻のような建物の周りをぐるっとまわり、建物の中へ入りました。すると、食事を食べながら寛ぐゲストの姿がありました。

世界の家庭料理が楽しめる、アットホームなレストラン

伊豆高原でふたりの女性が営むレストラン「jikka(ジッカ)」。レストランに入ると、ひとりの女性が(藤岡さん)がキッチンとゲストの間を行き来し、ゲストとの会話を楽しみながら料理を配っています。jikkaが提供するのは世界の家庭料理で、メニューはなく、その日に手に入る食材によって決まります。キッチンで作業をされている須磨さんは夫の転勤でヒューストンに暮らしたことがあるそうです。この日は、野菜のオーブン焼きから始まり、地元のあじを使った塩マリネとサワラのトマト煮、ビーツが入ったかわいいピンク色のポテトサラダ、ピロシキ、伊豆牛のボルシチ、栗ご飯、最後はデザートにシフォンケーキとりんごのオーブン焼きと珈琲か紅茶を選ぶことができます。どれも手の込んだボリュームたっぷりの7品です。

緑を切り取るアーチ型の窓と、天井の窓から降り注ぐ光がキッチンを照らし、神聖なる雰囲気を作っている
子ども用に用意してくださった、うさぎのような椅子

野菜をふんだんに用いた前菜の盛り合わせ。きのこのソースが美味しい
あじの塩マリネの感動が忘れられない
ビーツによるピンク色がかわいい、ポテトサラダ
もちもちのピロシキの中には、ゆで卵やハーブがたっぷり
伊豆牛がほろほろと口の中でほぐれていく
自然な甘みの栗ご飯。この量がまたいい
シフォンケーキと酸っぱい焼きりんごの組み合わせがベストマッチ

不思議な建物の理由

ここはレストランである前に、個人の家であり、生活の場なのです。もともと「jikka」は飲食店として設えた場ではありません。今もあくまで藤岡さん、須磨さん2家族の個人宅として食事を提供しています。この個性的な家の形を考えたのは、須磨さんの息子で建築家の須磨一清さんで、終の棲家としてこの土地に建てられました。現在は週に4日間、営業はランチタイムだけです。営業日時などの告知は、小道を降りた広い通り沿いにぶら下げた、手書きのボードにあるカレンダーの書き込みのみ。地元の人しか気づかないような、ささやかな案内です。そう、もともと「jikka」は、地域の人に向けて始めた食事の場でした。

実家のような“jikka”と、新しい生き方

「jikka」の名称は、実家のようにアットホームな場所に、そして実家のものを活用しよう、というふたりの思いからつけられました。料理を配りながら、料理の説明や子どもにひと声かけてくれたり、お店を出る時は藤岡さん、須磨さんが玄関までお見送りしてくれます。まるで実家のような、親しい友人の家に訪れたような、居心地の良い空間でした。伊豆高原の不思議な建物には、時間や場所を誰かと分かち合いながら生きる、ふたりの新しい試みがありました。

Jikka

住所:静岡県伊東市池890‐6
 電話:080‐5007‐8444
 営業時間:12:00~15:00 ※完全予約制(コース全7品、2,500円)
 定休日:日曜、月曜、木曜
 アクセス:伊豆急行「伊豆高原駅」より車で8分(専用駐車場あり。黄色い看板が目印です。)

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